晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

「BUTTER」

 結構迷って、買った本。柚木麻子さんがどんなものを書くかも知らなかったけど、この本が連続不審死事件の木嶋佳苗死刑囚を素材にした小説だというのは帯でわかった。いわゆるワイドショーをにぎわすような事件にはあまり興味がない。しかしながら、テレワークが本格化してかつ連休も重なるので、当分外に出ることもないと思い、この本をレジに持っていった。600ページ近い厚さとタイトルに惹かれた部分がある。読み終えた今となっては、その時の自分の判断をほめるしかない。面白かった。書いた人がもっと立派なのは言うまでもない。

BUTTER (新潮文庫 ゆ 14-3)

BUTTER (新潮文庫 ゆ 14-3)

  • 作者:柚木 麻子
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫
 

  主人公は週刊誌記者の町田里佳。ネタ元も持っていて特ダネをモノにしたこともある。なかなか「できる」記者と言えそうだ。編集部初の女性デスクになりうる存在である。この編集部、以前書いたアンカー方式をとっているらしく、記者が集めてきたネタをデスクがまとめて記事にしている。里佳は、自分の名前で記事を飾るという経験がない。

 そんな時に、木嶋佳苗がモデルである、連続不審死の疑いで拘置されている梶井真奈子と面会のチャンスを得る。彼女に言われたのが「バター醤油ご飯」を食べること。その前に伏線として、里佳がバター不足でマーガリンで代用したエピソードがセットされている。里佳の新婚の友人・伶子の家に訪ねた時のことだ。里佳が真奈子にそのことを話すと、マーガリンでバターの代用などできないと一笑に付される。

 実在の事件の死刑囚をテーマにしたノンフィクション的な楽しみと本物志向のグルメものが絡んでくる。そのうえ、里佳、真奈子、伶子の3人3様の家庭関係をベースにした心理戦の様相もあり、対峙する相手やマウントする立場がどんどん変わっていく。

 その絡みのバランスがあまりに見事なので、途中で本を読むのをやめて、この柚月麻子という作家について調べてしまった。脚本家を目指していたらしい。しかも直木賞候補が5回。妙に合点がいった気がした。この小説、韓国映画のようにいろいろと事を起こして興味を引っ張りながらも、それでいて過剰じゃない。なんかきちんと収まるところに収まっているのだ。で、通底しているのは女性への応援歌の部分か。この作家の作品を調べてみると、そこも納得がいく。妙に可愛らしいタイトルの作品が多い。

 どれだけ事実に忠実かどうかはわからないが、有名事件の顛末が頭に入り、グルメな情報や働く女性の事情まで、この本だけで12回分のドラマを見たような気分になった。なかなかゴージャスな一冊だった。