ハルキ文庫から長田弘さんの詩集が出ていた。「死者の贈り物」。ハルキ文庫は詩にも力を入れていて、かつ手を出しやすい値で売っているのでありがたい。「食卓一期一会」「深呼吸の必要」「一日の終わりの詩集」と、長田さんの詩集のタイトルは刺さるものが多い。西淑さんのイラストがこれまた素晴らしい。詩のトーンとマッチしていて、存在感のあるイラストだ(それでいて、うるさくない)。
翻訳者などといろいろな顔があるせいか、長田さんのことはずっとエッセイストみたいな感覚で付き合ってきた気がする。詩を書くのは知っていたけど、岩波新書を読んでいたせいだろうか。でも、2015年に亡くなったあたりから、自分にとって、ぐっと詩人になってきた。福島市出身というのもあって少し身近に感じ始めたのかもしれない。福島というものさしが出てきたのは、やはり東日本大震災から。それまではあまり気にしなかった。
「死者の贈り物」は100ページくらいの本だが、一篇読むたびについ遠くを見てしまうような詩がまとめられている。
本棚のいちばん奥に押し込んだ
一冊の古い本のページのあいだに、
四十年前に一人、熱して読んだことばが
のこっている。(略)(草稿のままの人生)
2003年にみすず書房から出た詩集だが、自分の人生が晩年に差し掛かってきたという意識があるのか、妙に感傷的な気持ちにさせられるのだ。あとがきを読むと、親しかったものの記憶に捧げる詩になっているという。親しかった場所や時間、人、猫など。「死者を悼むことは、ふるくから世界のどこでだろうと、詩人の仕事の一つだった」と。どおりで遠くを眺めてしまうわけだ。
ある作家や詩人を好きになってくると、征服欲みたいなのが湧いてきて、全部読んでやろうなんて気持ちが出てくるのだが、長田さんに関してはあまりそういうのはない。古本屋で全詩集を見つければ、買うこともあるかもしれない。だけど、なんか文庫で持てるくらいがちょうどいい。そんなに畏まるなと言われている気がする。
長田さんは読書に関しての本をいくか残しているので、その辺は読んでおきたい。