晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」

 「幻のユキヒョウ」を読んだのがきっかけ。「懐かしい未来」という題は、上白石萌音さんの歌にもあるようなので、あえて副題も記した。ラダックとはインド北部の地域で、インドながらチベット文化が色濃い地帯だ。ユキヒョウ姉妹さんのこの本によると、ユキヒョウの姿はモンゴルやキルギスあたりだと生息地にカメラを設置して後で姿を確かめる方法がとられるが、ラダックだと直に見られるツアーがあるらしい。人間も相当な高地に住んでいるということだ。その分だけ、ユキヒョウに家畜が襲われるということもあるとのことだ。ここでユキヒョウの話はやめにして、ラダックの話に入る。

 筆者はスウェーデン人のヘレナ・ノーバーグ=ホッジさん。言語学者だそうだが、今はローカリゼーション運動の推進者という肩書がメインじゃないだろうか。1975年にラダックが観光客に解放された時の最初の訪問者で、現地に拠点を構えてラダック語の英語訳辞典を編纂したという。

 全般的な話を書いてしまうと、前半部分は筆者が入った当時のラダックについて。次に「近代化」「西洋化」がこの奥地にもたらした悪影響について書かれ、最後は、やはり持続可能な社会を作るためには、(昔の)ラダックの生き方に学ぶ必要があるという主張や活動報告が記されている。40カ国に翻訳されているそうなので、もはや古典の域と言えるかもしれないが、現状においては時機を捕らえた本とも言える。出版社は、山と渓谷社。増補版としてラダックの近況が追記されている。

 自分はラダックという場所に興味を持って手に取ったので、ローカリゼーションにまで話が及ぶとやや too much な感があった(でも大事な話)。著者がラダックに入った当時の話が興味深い。人々は与えられた以上の環境を望まず、必要以上のことをしない生活をしていたという。状況に応じて、一夫多妻や一妻多夫という世帯もあった。詳しく書き始めるときりがないが、農耕なども自分がこなせる分だけこなすというスタイルで無理もなく過剰もない生活だったという。「文明」に染まった自分には不便でしかないだろうが、ラダックの人々がある境地に達しているような印象を受けた。なかでも、現地の伝統医療で脈の取り方が6つあり、それで体の状態がわかるという。一度、診てもらいたい。

 その後、「文明」や「開発」の波が押し寄せる。西洋的な価値観が入り込んできて、格差が生じ、これまでの生活を恥じるような人が増えたという。若い人は金髪青い目をうらやましがるようになった。

 気候を例にとっても分かるとおり、人間の過剰な開発で地球は今バランスを崩している状態なのだろう。持ち直すことができるのかどうかはわからないが、地球や生物と共存共生していくためには、ラダックの生活がモデルになるというのが著者の主張である。

 ラダックにはこんなことわざがあるという。「虎の縞模様は外に、人間の縞模様は内に」。ずばりそのものの解釈はわからないが、人間は怖い物を内に秘めている、もしくは、本性を出さないという意味だろうか。資本主義という湯にたっぷりと浸かっている自分に、冷水を浴びせてくれたような本だった。