谷川俊太郎さんが亡くなって1年半くらいほどになる。この「虚空へ」が生前最後の詩集とのことだ。没後、谷川さんの本が一気にでたせいか、昨年10月末に文庫で出たこの詩集をどうやら見逃していたらしい。忘れ物を取りにいくように購入した。
そもそも谷川さんの詩はやさしい言葉で装飾の少ないものが多いが、この詩集に収録された詩はそぎ落とされた、もしくは絞り出されたような、語数の少ない詩が収録されている。一段とシンプルになった印象だ。短い言葉で改行した十四行詩が88編。詩一編につき見開き2ページとなっている。最晩年になって、言葉の感覚がより研ぎ澄まされた感があるが、けっして鋭利ではなくどこかまるい。
縦書きと横書きの差はあるが、例えば以下のよう。詩にタイトルはついていない。出だしをそのままタイトル代わりにしている。
(本を閉じる)
本を閉じる
緑が
目に沁みる
風が吹いて
揺れる葉が
今ここを
告げるから
人がすることを
今日も
する
必要は
不要
自足する
宇宙
公園で読書していた場面か。前半は普通だが、後半はどこか谷川ワールドだ。公園のベンチか、直に座っていたかはわからないが、そこから一挙に宇宙に展開する。谷川さんらしいな(たまたま開いたページを引用した)。
「拾遺」にはタイトルがついている。理由はわからない。
いのちの無言
人知れず
夜
咲く花の
静けさ
ヒトの沈黙は
喧騒の
擬態
早くも
時が
言葉を
化石にして
いのちの
無言が
世界を鎮める
谷川さんが「あとがき」に、「今の夥しい言葉の氾濫に対して、小さくてもいいから詩の杭を打ちたいという気持ちがあった」と書いている。一文字で改行しているせいかもしれないが、それぞれの言葉が磨き抜かれて選ばれたように感じる。最後の最後に大傑作の詩集となったと静かに興奮している。
谷川さんの詩集って無数に出ているし結構手に入りやすいので、文庫本は「二十億光年の孤独」以外は売りにだすことが多いのだが、この詩集はもう一度読み返す日が近々来るような気がする。新潮文庫は栞紐がついているので、読み終えた後は読了の証しとして最後に挟んだままにしておくのだが、また最初のページに戻しておいた。
