晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「韓国文学の中心にあるもの」

 斎藤真理子「韓国文学の中心にあるもの」を読んで、戦争の「副作用」というものを強く意識させられた。1950年に勃発した朝鮮戦争は53年以降は休戦状態のままで戦争は終わっていない。BTSの徴兵問題だって、北朝鮮がやたらとミサイル実験をするのだって「戦時中」であるのが根っこにある(それだけじゃないだろうけど)。

 斎藤真理子さんは翻訳家。近年やたらと点数が出ている韓国文学翻訳者のエース格である。帯によると、韓国文学は「こんなにも面白く、パワフルで魅力的」だそうだが、その根底には戦争があるという。

 湾岸戦争あたりから戦争はテレビで「可視化」され、固定カメラから爆撃というイメージを与えるようだが、朝鮮戦争はいわば地上戦。戦争を仕掛けた北側(北は否定している)がまずは釜山近くまで攻め込み、連合軍が仁川上陸作戦を機に中国国境近くまで押し戻し、中国義勇軍が参戦して、また押し返すという展開。半島のほぼ全土が戦地となった。

 北側が支配していた地を今度は南側が奪う。もしくはその逆もあっただろう。例えば、そのような場所に人が残っていると、新たに占拠した側は「こいつはスパイか」などと疑心暗鬼になって住民に対する虐殺が行われたこともあったという。殺してしまうことが一番安易な選択になってしまうのが恐ろしい。

 戦争が本題じゃないのでこのくらいにしておくが、休戦状態であるがための徴兵制が韓国社会に深く根を下ろしている。やや短縮されたもの、男性は基本的に2年近く軍隊に行き、暴力などの理不尽に耐えて「一人前」扱いされる。一種の通過儀礼だろうか。除隊後8年間は予備軍で、年に一度の訓練に参加。40歳までは民防衛隊の一員になる。

 女性よりも社会に出るのが2年遅くなる。それは男性にとってハンディであることは間違いない。BTSのメンバーもそうだが、スポーツ選手だって選手生活の一部を削ることになる。男性が国を守り、女性がそれをサポートするのが「契約」となっているそうである。「82生まれ、キム・ジヨン」の日本語版には在韓のジャーナリスト、伊藤順子さんが韓国社会の背景を解説してくれているそうだ。軍務に着くと、公務員採用試験の時に加算点が与えられていたが、「障がい者や女性の権利を侵害する」として、1999年に違憲判決が出たという。男性側には「社会や国のためにやっているのに加算くらい」と思う人が多いのだろう。これが女性嫌悪につながっているというのだ。

 フェミニズム小説を読んだタレントがバッシングを受けるなど、反応が過剰すぎると思ってはいたが、なるほどこういうことだったのか。韓国の男女間における社会としてのバランスの悪さは儒教的な部分が多いと思っていたが、このような面もあると合点がいった次第である。

 この本は、いわば韓国本のブックガイド。斎藤真理子さん個人の視点で書かれているが、ドラマや映画にも負けないようなパワフルな素材(帯に偽りなし)の文学が紹介されている。読みたい本がたくさんあるなあ。