晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「恋愛中毒」

 2021年に58歳で亡くなった山本文緒さん。彼女の小説を読んだことがなかったので、「新潮文庫の100冊」にある「自転しながら公転する」を読んでみようかと思ったが、kindle unlimitedに彼女の代表作が含まれていると知って、この「恋愛中毒」を読んでみた。kindle unlimitedには月千円近く払っているので毎月1、2冊は読んでおきたいという、せこい考えもあった。60歳手前のおっさんが読むタイトルじゃないだろうと思いつつ読んでみたが、恋愛モノという先入観が逆に良い意味での「裏切り」となり、読書体験としては相当に楽しめた。お恥ずかしい限りだが、山本文緒さんと山本昌代さんを混同して、「居酒屋ゆうれい」を書いた人だと思っていた。

 この小説の主人公は水無月という女性。離婚歴がある。同級生が経営する小さい出版社の事務職として働いている。この出版社に転職してきた井口の男女トラブルが引き金になり、水無月が自分のことを話し出すことから始まる。

 彼女は弁当屋に勤めていたが、そこに客として訪れたのが、物書き・タレントの創路功二郎だ。水無月は彼のファンで、サインをもらった事がある。創路には妻の他に、「羊ちゃん」と呼ぶ古株から娘のような歳の子までの愛人たちがいる。「蒲田行進曲」で風間杜夫が演じた「銀ちゃん」のような、調子が良く自分勝手な人間だが、水無月もその中の一人として加わる事になる(ドラマ化の際には鹿賀丈二が演じた)。

 読み手として、水無月の視点に沿って物語を追っていくのだが、「ん?」と思わせるような発言や見方が途中から現れてくる。水無月の行動に、愛人たちと本妻に対する態度、別れた夫への思い、親との関係に、どこか攻撃的でエキセントリックな部分が出てくるのだ。それが徐々に加速していく。

 後半はほぼ一気読みだった。話が大きく動いて、あれよあれよの展開。繰り返すが、山本文緒の世界を知らず、単なる恋愛モノと思ったせいで(途中から違うって気づいたけどね)、予想以上に物語にはまってしまった。一種の心理スリラーというべきか。1999年に刊行されて、翌年にはドラマ化。そりゃ、この作品を映像化したいって気持ちになるわ。満足の一冊。