晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

「ショパンに飽きたら、ミステリー」

 昨年、「六本指のゴルトベルク」を読んで、探した本。割と簡単に見つかった。「六本指」同様、音楽とミステリーを絡めたエッセイがメイン。というか、こちらが10年以上も先なので、とりあげる本は古くなるが、自身についてのことなどにも触れられている。ネタとして、身近なところから書いているということか。フランス文学者で詩人でもある青柳瑞穂さんのお孫さんなので、骨董が趣味だった祖父の影響でそれなりの鑑識眼もあるようだ。

 「探偵小説を買う女」。まずは自己紹介めいたエッセイで始まっている。阿佐ケ谷か高円寺当たりの古本屋に2、3カ月の1度、「ある一定の期間つづけて、狂ったように日参するオバサンがいる」と。軒先の百円コーナーを眺めては、店内の二百円~三百円の棚に進み、十数冊買い込んでは消え去る。そして、リサイタル前の睡眠薬代わりにミステリーを読みまくるのが著者だそうである。

 自分の話だが、ミステリー読みを尊敬している。周囲に読者家のように見られているという自覚は多少あるのだが、趣味の読書はともかく、仕事がらみで読むこと(厳密に言うと、「調べ物」)もあり、純粋に読書と言えない部分が多いと思っている。時間的に、「調べ物」の部分が「趣味」の押し出していることが多いし、「知りたい」「知ってやろう」と知識欲が出すぎていている部分もある。その点、ミステリー読みは単純に「読むこと」を楽しんでいるように思えるのだ。自然体で。

 クラシック演奏家にはミステリー好きが多いらしい。コンサートやオーディション、レッスンの合間に読む、ミステリーは気分転換をはかる最上の手段と書いてある。青柳さんが、音楽面の日常とミステリーを絡めて書いた、カツとカレーと、いいとこ取りをしたカツカレー(個人の感想です)のような一冊になっている。

 30冊以上もある著書の中では、かなり初期の作品なので、登場してくるミステリーも、赤川次郎横溝正史松本清張紀田順一郎、外国勢としては、ルブラン、ルルー、ヴァン・ダインなどの大御所の作品が多い。奇をてらったような作品が少なく、間口の広い選択と感じた。

 ピアニストは手の大きさとか、身体的な要素もあるということも知った。留学した人が一年以上も、椅子の座り方(姿勢ということか)の指導を受け、演奏自体の指導になかなか進まなかったというエピソードを読むと、サッカーや野球で体力作りやフォーム作りでボールを触らせてもらえない場合があるのと一緒だなと思ってしまう。深いな、音楽もミステリーも。