晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「六本指のゴルトベルク」

 またまた中公文庫を読んでしまった。ロック、ジャズ、クラシックの名盤紹介とか、音楽家の伝記など音楽物は結構読んできたつもりだったが、こういう本ははじめて出会ったかもしれない。著者は、青柳いづみこさん。この人が音楽家(ピアニスト)であり、文章も書く人だというのは随分前から知っていたが、食指が動かないというか、どこか敬遠していたようだ。なぜだろう? 著者近影のいかにも芸術家然たる写真に腰が引けていたみたいだ。

 実はCDは1枚持っている。どちらかと言えば、高橋悠治目当てで買った「物語」。イベールやミヨーが聴きたくて購入したのだが、なかなかのローテーションでかけている。なかなかのお気に入りである。

 さて、この本は、文学やミステリーに登場する音楽や音楽家に関わる部分から、掘り下げたエッセーだ。冒頭は、トマス・ハリス羊たちの沈黙」で、主人公というべきかハンニバル・レクター博士は左の手の指が六本あった。中指が2本あったのだ(これが本のタイトルにつながっている)。しまったと思った。トマス・ハリスは「ブラックサンデー」を読んだだけで、その後は、読んでいなかったのだ。「ブラックサンデー」も映画化されているのだが、のちに「羊たちの沈黙」「ハンニバル」が映画としてヒットしたせいで、自分の中のあまのじゃくの部分が作動してしまったのだ。「羊」には収監されているレクター博士が、グレン・グールドによるバッハ「ゴルトベルク変奏曲」の差し入れを頼むシーンがあるそうだ。もちろん話がそこで終わるわけではなく、ひとつひとつの話が見事に完結する。

 他にも、中山可穂「ケッヘル」、J・エルロイ「レクイエム」、イェリネク「ピアニスト」など、音楽に関わる小説やミステリーがこんなにあるのかと驚いてしまう。演奏や音楽に関しては、青柳さんが専門家すぎて、楽器をまるで弾かない(弾けない)自分にはわからない部分もあるが、それでも十分に楽しめた。

 公式サイトによると、青柳さんは井伏鱒二太宰治などの阿佐ケ谷文士村という特殊な環境で育ったそうだ。あまり詳しくは書いていないが、祖父が仏文学者だった影響があるのだろう。この本は10年くらい前に文庫になった本。「ショパンに飽きたら、ミステリー」という本もあるそうだ。読みたいなあ。手に入るだろうか。