晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「よこはま野毛太郎 酔郷ではしご酒」

 横浜の人には説明不要だろう。野毛とは横浜の酒場街の一つで、昔からオヤジどもや酒飲みの「聖地」として扱われている場所。近年若者が増えてきて、「横浜西口」化が少し寂しい気もするし、逆に後継者が出てきたようなうれしさも感じている。この本は、オヤジどももまだまだ寄るところ(飲むところ)あるよ、と励ましてくれた気がする。

 ちなみに、野毛といわれる地域は、JR桜木町駅からみなとみらい方面とは反対側にある。「野毛ちかみち」(近道と地下道をかけている)を通った先が、いわゆる「野毛」である。いやいや、「ちかみち」とつながっている「ぴおシティ」の地下2階の飲み屋街も、すでに野毛と呼んで良いだろう。この本では、桜木町駅南口改札脇の立ち食いそば「川村屋」も加えたいと書いている。両端は大岡川紅葉坂あたりが境で、奥は野毛山公園あたり、飲み屋街としては野毛や宮川町、日ノ出町、花咲町あたりも含むという。ここらに異論はない。

 4つの切り口で書かれている。もちろん酒と絡めてである。まずは鉄道。その昔、桜木町から大船を結ぶ路線が予定されていたという。もちろん現在の根岸線とは別コースで、桜木町から川沿いに進んで南太田、そこから戸塚にでて、大船に至るという路線だったそうで、一部工事が進められていたが関東大震災で頓挫したそうだ。筆者は、当時の鉄道予定地上にある店を訪れて、酒を飲む。

 次に、横丁。昔、数回行った「侘助」の後に入った店について書かれていた。この横丁が、「侘助」の主人の名前から「まちこ通り」と呼ばれているとはしらなかった。でも、確かに「まちこさん」だった。一緒に行った仲間がそのように呼んでいた記憶がある。良い店だったなあ。現在の「ウミネコ」も相当魅力的に書かれている。

 そして、音。ここではジャズ喫茶を中心に、シャンソンバーなどについて。「ダウンビート」「パパジョン」は通った。「ル・タン ペルデュ」はベルギービールの味を教えてくれた場所でもある。投げ銭ライブも行われていた。この章を読むと、かつて野毛に行く頻度が高かった時代を思い出した。今や酒量は減り、朝のランニングコースである。最後は野毛山で、この章は自分がよく知らない部分(お店も含め)。ここも走るが、まだまだ研究不足を実感した(登るのでそんなに足が向かない)。かつては実業家が邸宅を構えるような地域だったそうだ。現在の桜木町駅が昔は横浜駅だったわけで、拠点でもあり海も見晴らせたろうから、言われてみると分からなくもない。

 この本は、野毛に倉庫兼店舗を構える小規模出版社・星羊社から出ている。コロナ禍もあり4年ぶりの出版だそうである。編集部2人で、取材、執筆、デザイン、編集を手がけたそうである。なかなかのセンスとみた。他にも、阿部定が1カ月ほど滞在していた話や、三杯屋(酒は三杯まで)として知られた「武蔵屋」の話もある。2人とも文章がえらく上手だ。

 横浜に住み始めたのが1983年ごろ。働いた給料で飲めるようになったのが90年の前半くらいか。その頃から野毛にはお世話になっている。東横線桜木町駅廃止や最近ではコロナ禍のピンチを見てきたが、大道芸などの町おこしが効果があったのか、活気を取り戻してきた。コロナ禍で老舗がなくなっていき、若者向けなのか似たような店舗が増えてきたのは寂しい気がするが、雑多な部分はいつまでも残っていてほしい。