晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「「自分の木」の下で」

 ふと読んでしまったのである。読み残しや積読の小説がたくさんあるのに、立ち読みしてつい買ってしまった。大江健三郎さんが子ども向けに書いたエッセイである。「なぜ子供は学校に行かねばならないのか」「子供の戦い方」など、たぶん質問を受けたわけじゃないだろうけど、語りかけるように書いている。総じて読みやすい。

 祖母の話のひとつに、谷間の人にはそれぞれ「自分の木」と決められている樹木が森の高みにあって、人の魂はその「自分の木」の根元から谷間に降りてきて人間の体に入り、死ぬときは身体がなくなるだけで、魂はまたその木に戻っていくそうである。しかも、「自分の木」の下に立っていると、年をとった自分に会うことがあるから、近づかない方がいいとのこと。このように自分の幼少時代を顧みて書いている文が多い。息子である大江光さんや、名前は出てこないが伊丹十三監督の死についても触れている。

 エッセイだけど、なんとなく大江版「君たちはどう生きるか」のような雰囲気がある。若い子どもの道しるべになるような内容だ。どこかほっこりさせるものがある。あまり大江健三郎さんの小説は読んだことがないが、それとなく彼のルーツと数々の小説のタイトルがどこか結びついているような気になってきた。

 考えてみれば、亡くなったのはちょうど一年前か(2023年3月3日)。手元に小説(文庫本)はいくつか残してある。そろそろ彼の小説を読む時期が来ているのではないか。少し促されたような気になった。