晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「星野道夫 約束の川」

 平凡社が出している「STANDARD BOOKS」シリーズが気に入っている。当初は、寺田寅彦中谷宇吉郎などと理系の名文家をそろえていたが、だんだんとジャンルが広がってきた気がする。いまは第4期で松田道雄さんと星野道夫さん。今後、河合隼雄さんや吉阪隆正さんが続く。

 で、読んだのは、写真家の星野道夫さんのエッセイ。写真家としてアラスカに行ったのではなく、アラスカで生きるために写真を選択したという。漠然と冒険家と思っていたが違うようだ。しかし、アラスカでカリブーなどの写真を撮るというのは冒険以外何物でないだろうと、せいぜいランニングと銭湯巡りでしか外に出ない人間は思う。

  アンソロジーなので、よく読んでいる人にとっては目新しいものはないかもしれない。このSTANDARD BOOKSというシリーズ自体がそのようなもので、セレクトのセンスが問われるところだ。星野さんの本は一冊や二冊は持っているのだが、相変わらずの積読で読んでいない。この本は、星野デビューとなった。

 優しい文章を書く人だなという印象。撮影のためにセスナを飛ばしてくれるブッシュパイロットや鳥類学者、日本文学研究者など、人を中心に書いたものが多い。そのような内容のものでそろえたかもしれないが、人への感謝の気持ちとリスペクトが表れている。18歳の時にアラスカの写真集を見て、村の長と思える人に、村の生活に非常に興味があるのでなんでもするからどこかの家においてくれという内容の手紙を送ったという。そもそもダメ元だったかもしれないが、大胆なことをする人だなと思った。アラスカにいい森があるから、家を買いなさいとすすめてくるという話も、なんかスケールがでかくて素敵だ。

 「雪、たくさんの言葉」という話が好きだ。アラスカだけあって、雪を表す言葉が豊富。「アニュイ」は降りしきる雪、「アピ」は地面に積もった雪、「クウェリ」は木の枝に積もる雪、「プカック」は雪崩を引き起こす雪など。日本だと、雨を表す言葉は英語に比べて多そうな気がする。自然の豊かさを言葉で感じ取れる一篇。いい本読んだなって感じ。