晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「三春タイムズ」

 小田原の「南十字」で購入した本。里心ってほどではないが、東日本大震災以降、福島県浜通り中心だった関心が県全体、東北全般に広がった気がする。名前は知っているけどよく知らない町についての本。何かの縁だと思った。

 磐越東線で郡山から二駅目にある三春。郡山ーいわき間では、この二つの市は別として一番大きな町だと思う。浜通りから郡山に向かう時に、ゆべしで知られる「かんのや」の販売所があって、トイレ休憩のような形で時折寄った記憶があるが、それだけである。とはいえ、赤べこ、桜が有名なのは知っている。

 著者は、2016年に東京から三春に移った、長谷川ちえさん。「永く使いたい器と生活道具の店」in-kyo の店主でエッセイスト。著書もいくつかあり、端正な文章を書く。うーん、プロだなあ。shunshunさんのイラストも描きすぎず省きすぎず、絶妙である。この本を出している信陽堂は東京の出版社で、出版物を見ると和菓子のようなつくりの装丁の本が多い。上品な感じ。

 二十四節気の暦に沿って、移り変わる三春の表情を描いたエッセイ。歳時記といったところか。実に豊かな場所じゃないか。自分が住んでいた浪江とその一帯(常磐線沿い)は東北新幹線が開通したあたりから下降気味で、震災と原発事故で壊滅的な状態になったが、長谷川さんの筆の力もあるのだろうが、三春は非常に魅力的な場所のようだ。自然とのバランス、町の規模がちょうどいいのだろうか。夏は(比較的)涼しく、降雪は少ないとか。寺社が多いようで祭事もある。梅、桃、桜と三つの春が一度に訪れて「三春」なのか。こう考えるとなかなか魅力的な地名なのに、子どもの頃はまったく気づかなかった。そういえば、浪江の近くの「夜ノ森」も色っぽい地名だと気づいたのは震災の後だった。

 磐越東線の本数は少ないが、この夏に行った郡山にかなり近い。喫茶店「メロディー」は、本が出た2020年の時点で、ナポリタンがドリンク付きで550円(税込み)。値段につられているわけではないが、ちょっと気になる存在になった。隣の船引町にはサッカーの試合で行ったことがあったけど、三春は盲点だったなあ。帰省の楽しみが出来た。この本の続編もあるので、読んでみたい。