晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「この世にたやすい仕事はない」

 奥付をみると文庫の初版が出たのが2018年12月だが、なぜか新刊文庫のように平積みされている。「サキの忘れ物」を読んでいるので、こちらが先に刊行されているのはわかっていたが、どうやらまた脚光を浴びているらしい。ドラマ化でもするのか。それはともかく津村記久子さんなら間違いあるまいと思って購入。楽しませてもらった(書影は単行本。新潮文庫で読んだ)。

 最終話まで仕事の内容は明かされないが、14年続けた仕事をいわゆるバーンアウトで辞めた主人公が、職業安定所で紹介された仕事を転々とするという話だ。紹介された仕事別に章立てが分かれている。

 タイトル通りに書くと、「みはりのしごと」「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」「路地を訪ねるしごと」「大きな森の小屋での簡単なしごと」の5つ。このような仕事が実際にあるかどうかはわからないが、どなたかがこのような仕事をやっているのだろう。ちなみに「みはりのしごと」は、カメラで小説家を監視する仕事で、「バスのアナウンスのしごと」はバスの停留所ごとに車内アナウンスされる停留所周辺の店舗を紹介する文面を考える仕事である。

 個人的に面白いと思ったのが、3話目の「おかきの袋のしごと」。パッケージの裏に載せる豆知識シリーズのようなものを考える仕事である。「おーいお茶」のボトルに川柳が載っていたが、そういうものに近いだろうか。主人公は、「ことばの由来」や「名前に使われている漢字の意味」を考案し、中身のおかきとともに好評のようである。どの仕事をしても、それなりの才覚を見せる。

 それじゃないと話が進まないのだが、現場では惜しまれつつも、主人公は仕事を変えていく。どこかひっかかるところが出てきて、やめてしまうのだ。自分の周りでも多いのだが、一度会社を辞めると、なんか「辞め癖」らしきものがついてしまうのか。

 仕事の話ながら、きちんとエンタメになっている。本人の逡巡もわかるような気がするし、ちょっと変わった仕事にちょっと変わった人たちが関わってきて、つい読まされてしまった。主人公はサッカーに疎い設定なのだが、筆者自身のサッカー愛がにじみ出て、サッカーファンにもお勧めの一冊になっている。