精神的に困難を抱えている人を回復させる方法として、「オープンダイアローグ」という方式があるという。「その人のいないところで、その人の話をしない」「1対1ではなく、3人以上で輪になって話す」というのが基本形だそうだ。思わず「基本ルール」なんて言葉を使いたくなったが、なんか決めつけたり締め付けたりする言い方になるので、なんとなく避けてしまった。発祥はフィンランドだそうだ。書籍をフィンランドで検索すると、教育、豊かさ、デザイン関連の本が出てくるが、最近一段と関心が増している存在である。
著者の森川すいめいさんは精神科医、鍼灸師。2020年に日本の医師として初めてオープンダイアローグ・トレーナーの資格を取った二人のうちの一人だそうだ。表紙を見ると、映画「ロケットマン」冒頭のエルトン・ジョンがアルコール依存症から脱するために参加した自助グループを思い出した。このように精神状態が芳しくない人が、関わる人たちの前で自分が抱える困難を話す。病名で区別されることはないらしい。
そして、このトレーナーとなる人たちも「対話する」というプロセスを踏んでいくらしい。心構え次第ではすぐにもできそうだが、人の話をとことん聞く、それも複数聞くというのは現代人にとっては難しいのかもしれない。うまく言えないが、どこかで合理的にやろうとしたり、過去のあったパターンに落とし込んで早々と納得してしまおうとするのではないか。人を早々に「評価」しようとするのも対話を妨げるのかもしれない(自分にはそんな傾向がある気がしている)。
このオープンダイアローグは、1984年8月27日、フィンランドのケロプダス病院で誕生した。その原型は60年代には登場していたという。「1対1で話さない」というのは上下関係を作らないためという理由もあるらしい。確かに、上司に呼び出されるというのは、伝えたい人と聞くべき人と上下関係があるような気がする。フィンランドの自治体でも訓練された「対話のプロ」(たぶん、こういう決めつけもよくないのだが)がトラブル解消のために対話することを手伝うという。ちなみに森川さんは国際トレーナーになるまで2年ほど要している。
よく対話がなされるところでは、拘束なども少なくなるようだ。ただし、日本にはそのような病院・施設が少ないとのこと。対象には暴力的な人もいるだろうし、やたら話が長い人もはずだ。ケロプダス病院の人のように「話が長い人は、話し切っていないだけ」と、とらえられるようになるには時間がかかりそうだ。老いた母親への態度が少し変わりそうな一冊だった。