晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

「森のうた」

 岩城宏之さんのエッセー「指揮のおけいこ」に続き、「森のうた」を読んでみた。こちらの本は、時系列的にも出版も「指揮」よりは先。副題に「山本直純との藝大青春記」にあるとおり、東京芸術大学(本では、「藝大」と表記している)に在学している時の話をまとめたものだ。いわば青春時代の馬鹿話で、山本直純さんが実質的な主人公と言えるかもしれない。

 岩城さんは子どもの時に木琴を始め、打楽器奏者として東京芸大に入った。「指揮のおけいこ」もそうだったが、いまでは、掲載に配慮が必要な言葉とか、死語が随分と出てくる(「ブス」など)。それが、昭和という時代を感じさせる。当時の時代背景を考えると、そこに突っかかってもしょうがあるまい。お高くとまっているイメージのクラシックに接しやすい口調で書いているのかもしれない。

 そこに、山本直純さんのキャラクターが加わる。前にも書いたが、「男はつらいよ」「ミュージックフェア」の挿入曲で知られる、クラシックをお茶の間(これも死語か)に持ち込んだ人だ。山本さんは岩城さんの一年後輩だが、態度はやたらとでかい。この人を通すと、すべてが豪快で無鉄砲な人間の話になってしまう。キャラの立ち方がすごいのだ。

、二人とも指揮棒を振りたくてしょうがないし、音楽への情熱も半端ない。もりそばで演奏者を釣って学生を集めてオーケストラを結成しようとしたり、N響の音楽会に潜り込んだり。本番よりも練習の方に潜り込む方が難しかったらしい。山本さんが地方へ行く場合は無賃乗車だったなどとあまり褒められたものではないが…(実は、岩城さんが。払っていたらしい)。

 いわゆる青春モノ。音楽そのものよりも、若さや情熱が伝わるようなエピソード。無茶やっているなあと思いつつ、多少「盛った」部分もあるのだろう。いい時代だったなあと思いつつ、そんな時代には戻れないのも少し寂しい。