晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」

 刺激的なタイトルだ。普通に考えれば、「良い側面」をアピールしていかないと政党が権力を取ることなどないだろう。歴史的に良し悪しを判断するとなると「誰の(利益の)ために」「何の目的で」「政策はうまくいったのか」などを突き詰めることが重要だ。これは別にナチスヒトラーがやったことに限らないはずである。SNSなどで様々な意見を(必要以上に)目にする世の中になり、反射的・短絡的な反応を見せる人も少なくない。中には、わざと「逆張り」して耳目をひきたい人もいるみたいだ。この冊子が生まれた背景にはそんな理由もあるのだろう。

 著者の一人によると、小論文を教える予備校教師による、指導する女子高生が「ヒトラーのファンでナチスの政策を徹底的に肯定した内容」の論文を提出し、「文体が完璧」で添削に困ったとツイートした例があり、ネット界隈で議論になったという。結局は、その論文は「虐殺の有用性」を肯定する内容だったことがわかり、当初共感を示した人たちも引いていったという。しかし、失業率を低下させた、経済を建て直したなどと政策面を支持する人は少なくないらしい。ブックレットという紙幅が限られた中で、小野寺拓也さん、田野大輔さんという二人の研究者が、「ナチスがした良いこと」を検証する形になっている。

 すべてを書くのは無理なので、少し例を挙げる。まずは政策以前の話。ナチ党の訳語として「国民社会主義ドイツ労働者党」が当てられる。これはこれで正しいのだが、「社会主義」「労働者」の言葉から「共産主義」とほぼ同義の「社会主義」を思い浮かべさせる。自分も混乱した経験がある。ソ連共産主義を一緒にしてはいけないそうである。「国家社会主義」と「国民社会主義」の違いだそうだ。詳しくは読んでいただければと思う。

 ナチの制服が格好良いのは(そう思う人がいるようだ)、ヒューゴ・ボスがデザインしたからという話もあるそうだが(知らなかった)、ボスが制服を卸していたが、当時はただの縫製工場の一つだったそうで、デザイナーになったのは戦後だそうである。これはちょっとしたエピソードという感じ。

 手厚い家族政策を施したように見えるが、支援の対象が限られていた。当然ながら、「人種的」に問題なく、「遺伝的に健康」で、「反社会的」でもない人々だけだった。同時に、子どもを産まない「繁殖拒否者」には罰金が、障害者には強制断種や「安楽死」も行ったという。恐ろしい話である。このほか、イメージ戦略、環境政策や禁酒・禁煙政策などについても書かれている。