食べもの系に弱い自分にとって、原田ひ香さんは気になる存在だった。とはいえ、著書が多くどこから手をつけて良いか分からない。古本と抱き合わせなら面白いに違いないと、本書を手に取った。タイトルから、食堂併設の古本屋の話だと思ったのだが……。
両親を看取って、帯広に暮らしていた鷹島珊瑚。東京・神保町で古書店を営んでいた兄・滋郎が亡くなり、店とビルを相続することになった。単身東京に移り、高円寺に居を構える。当然古書店の経験もなく、店の処分も見据えながら、とりあえず営業を再開。親戚で国文科の大学院生・美希喜が手伝うことになった。
珊瑚と美希喜が交互に話者に努めるダブル主演のような形。一応、巻末には「本作品はフィクション」と断っているものの、神保町グルメの情報は本物。古本とグルメと、店の処分の行方、帯広に残した珊瑚の気になる人、美希喜の進路、生前の滋郎の恋愛話と複数のラインで話が進む。
全6話で、それぞれの話に本が絡んでくる。第1話は、小林カツ代「お弁当作り ハッと驚く秘訣集」、次に、本多勝一「極限の民族」、3話に橋口譲二「十七歳の地図」、4話に「お伽草子」、次に、鹿島茂「馬車が買いたい!」、最後は、丸谷才一「輝く日の宮」という流れで、散らし方はなかなかのもの。
本と同じように、食事も毎回いろいろと紹介してくれる。だが、グルメは良しとして全然「食堂」の話がでてこない、と思っていたら、最終話でタイトルに納得させられる仕組みになっていた。はじめて読んだけど、なかなか細かい仕掛けをする作家なのかも。
ちなみに原田ひ香さんも国文科卒とのこと。帯広に住んだこともあり、現在は杉並区に住んでいるそうなので、細かいところはかなり正確なのかも知れない。雑誌掲載時は「絶版食堂」だったらしいが、このところは電子書籍で読めるようになったりして、現状と齟齬がある事から「古本食堂」に落ち着いたとのことだ。次はどうやら、美希喜がメインになりそうな予感である。