晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「空が青いから白をえらんだのです」

 別な本を買いに行ったのに、書店を出るときにはこの本を持っていた。リアル書店の良いところだ。

 キャスリーン・フリン「「ダメ女」たちの人生を変えた奇跡の料理教室」を読んでみようと新潮文庫の棚をさぐると、同じく新刊で、寮美千子編「名前で呼ばれたこともなかったから 奈良少年刑務所詩集」が近くに積んであった。これが続編らしいので、第1弾から読んでみることにした。陳腐な表現かもしれないが、打ちのめされた。

 奈良少年刑務所の社会性涵養(かんよう)プログラムの授業を通じて「表現者」となった受刑者たちが紡いだ詩を収録している。表現としては、ストレートなものが多い。その愚直さがやたら心に響く。中には、殺人、レイプといった重い罪を犯した者もいるという。彼らは間違いなく加害者で、受刑中もその後も罪の重みを背負って生きていかなければいけない。

 しかし、彼らの多くが「被害者」の時を過ごしていた。子どもの時分に虐待を受けたり、育児放棄にあったり、学校ではいじめにあったりした者が多いそうだ。そんな彼らが「物語の授業」で絵本を(演じるように)朗読し、次に詩を読み、詩作をするようになる。受刑者の態度にも変化が見られるという。6カ月全18回の授業だそうだが、自分が「できる」「(ある分野に)詳しい」などと人に認められて、自信が生じることによって、人間関係がぐっとスムーズになるという。編者の寮美千子さんは2007年からこのプログラムの講師で、児童文学やノンフィクションの著作があるそうだ。

 続編を読んだときに書こうと思ったけど、奈良少年刑務所は2016年に廃庁(閉鎖)されている。老朽化のせいだそうだ。そういえば、当時の安倍首相がホテルにするとか言っていたのを思い出した。この建物は「明治の五大監獄」が最後のひとつで、このクラシックな外観を残しつつ、リゾート会社が史料館を併設した宿泊施設にするとのことだ。ちなみに現在少年刑務所は6つあり、女子は成人女性と同じ施設に入るので、女子向けの少年刑務所はない。

 この非常に格好の良い建物の設計者は山下啓次郎氏で、ジャズピアニストの山下洋輔さんの祖父とのこと。建物はれんが造りで格好がいいのだが、受刑者にはあまり認識されていないそうだ。入るときは護送車で、出る時は振り返ることがないからだそうだ。