晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「キャベツ炒めに捧ぐ」

 井上荒野さんの「キャベツ炒めに捧ぐ」を読んだ。以前に「ベーコン」という題の小説を読んでいるが、Twitter発信でも食べ物のネタが多く、いわゆるフードポルノの自分にとっては気になる存在である。瀬戸内寂聴さんが亡くなった後は、寂聴さんと父・光晴さんとの不倫劇と、それを黙認していた母を、娘である荒野さんが描いた長編「あちらにいる鬼」が話題になっている。11月には映画が公開される予定だ。光晴役は豊川悦司さんか。そういえば、詩人・北村太郎さんと田村隆一さんの妻との不倫をテーマにドラマ化された「荒地の恋」でも、北村役は豊川さんだったなあ。それはどうでもいいけど。

 東京の惣菜屋「ここ家」を舞台に、それを切り盛りする3人の女性の人生(の後半?)を、食べ物とともに描いた連作短篇小説だ。収録作品は、「新米」「ひろうす」「桃素麺」「芋版のあとに」「あさりフライ」「豆ごはん」「ふきのとう」「キャベツ炒め」「トウモロコシ」「キュウリいろいろ」「穴子と鰻」と、いずれも食材が絡んだ題となっている。

 惣菜店のオーナーは江子、開店当時からの従業員・麻津子、最近一緒に働くことになった郁子が主な登場人物で、江子と麻津子は60歳過ぎ、新入りの郁子が最年長。当然、それまでの人生に何もなかったわけではない。それぞれに事情がある。江子は、一緒に惣菜店を立ち上げた女性に、夫を奪われる形になってしまった。とはいえ、元夫とは衝突をしているわけではない。むしろ精神的には依存している。 麻津子は、幼なじみとの関係がはっきりしないまま続いているし、郁子は、子どもと夫を失っている。それぞれ焦点を変えながら、3人を中心に話が進んでいく。

 惹きつけられるのは、感情の振り幅が大きくないところか。小説なので、何も起こらないという事ではないのだが、非常に現実的というか、読み手の人生と重ね合わせられるようなレベルで、事が進行している気がするのだ。ちょっとした発言は聞き流したり、逆に不必要な事を言ったり、と年取ってくるとあるよねえと言うことが描かれている。これが料理が食材とうまく「あえて」あるのである。

 やっぱり、同じ作家の「リストランテ アモーレ」も読もうと、読んでいる途中に決めてしまった。