晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」

 気になるタイトルなので、読んでみたいと思っていたら品切れ。でも数日後に積んであったので、さっそく購入した。発売1カ月でもう3刷。10万部を突破したという話も聞く。今年のヒット作かもしれない。タイトルが匂わせている通り、読書史と労働史を掛け合わせて、日本人の労働と読書の関わりの変遷をたどっている。著者は1994年生まれだが、ご自身の人生から随分とさかのぼって調べてくれて、かなり勉強になった。

 このブログも「走」よりも「読」の比重が圧倒的に多いが(タイトルにやや偽りあり)、仕事がきつくなると本が読めず、あまり更新できないことがある。もちろん本そのものでつまずいている場合もある。1日24時間は等しく与えられているけど、体力、集中力は少し下降気味だ。この本のタイトルに惹かれたのはそんなところもあるのかもしれない。今務めている会社はスローな時間帯の読書には比較的寛容なのが助かっているところでもある。

 まずは文庫本。日本の偉大な発明だと思っていたが、紙の高騰が背景にあるのだという。つまり、紙の節約のためにサイズを小さくしたとのこと。偉大な発明はピンチから生まれる。そして「全集」も同じような事情だという。文庫と全集が普及するのは1950年代あたりだが、1923年の関東大震災のあとに登場した「円本」に端を発するようだ。震災の3年後、人が不況で本に手が出ない状況に、改造社が社運をかけて全集本を出す。いわば、全集本を一冊1円でサブスクするシステムを発案した。一括予約制で欲しい本だけは選べない。でも、一冊当たりは当時2円~2円50銭とされて単行本よりは安い。内容は名作をおさえ、これがあれば他の文芸書は必要ない。毎月1円の月賦(死語か?)で全集を揃えるシステムだ。これが当時の人たちの教養意識を多いに刺激したようだ。そして全集はインテリアとしての一面もあった。確かに昔応接に通されると全集や百科事典を並べている家庭がいくつかあった。

 話はそこから、大衆小説、司馬遼太郎歴史小説と進み、日本の読書史とも言える部分に入ってきて、後半は自分の人生とも重なる部分があって懐かしい。「サラダ記念日」や「BIG tomorrow」も登場する。「BIG tomorrow」はあまり読んだことはなかったが、コンビニや書店に並んでいたのは覚えている。

 流れをおさらいした後に、後半は本題に入っていく。時の流れでも、どんどん余裕のない時代になり、刊行される本も仕事に結びつく本が増えてくるような気がしている。「娯楽」が「情報」になっている。この本のテーマをやや強引にまとめると、「働きながらも読書する楽しみを持てる社会」にしていこうということだ。

 へーっと思ったのが、社会学者の上野千鶴子さんは、男性が「全身全霊で働く」のに対比して、女性の仕事は「半身で関わる」と表現したらしい。やはり家庭のことを切り離して働くことが難しいということなのだろう。一昔前はそうだったし、いまだにその名残りは色濃くあるように思える。著者の三宅香帆さんは、現代は男女ともに「半身で働く」ようにすべきだと書く。もっと趣味や介護や副業に使うべきだと。60歳に向けた自分にとっても刺さる言葉である。残された人生も多くはないので、それこそ読書にでも使いたいところである。そのための積読でもあるわけだし。しかし、30年前くらいのプランでは、そろそろ悠々自適で読書を楽しむはずだったのだが(苦笑)。

 最後に、著者は働きながら本を読むコツを紹介している。

 ①自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする

 いくつかフォローしているが、自分としては発信側に回りたい。

 ②iPadを買う

 著者は読書に向いていると書いているが、個人的には画面の照り返しが嫌である。漫画・写真や図表多数ならいいが、活字のみならカラーも嫌だ。個人的にはこれは却下。最近の、iPadについてはわからないが。

 ③帰宅途中のカフェ読書を習慣にする

 飲みながら(酒)読書が常だったが、さすがに弱くなってきた。こちらに切り替えるのはアリとみた。高いスタバでもビールよりは安い(安い飲み屋もあるけど)。

 ④書店へ行く

 むしろ遠慮したいくらい。日に1度くらいにしておきたい。

 ⑤読まなかったジャンルに手を出す

 もう手を広げたくないが、ゆるく構えていたい。

 ⑥無理をしない

 ランニングと一緒。無理もできなくなってきた。

 長めに書いてしまったが、総じて面白い本でした。三宅さん、ありがとう。