晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「はじめて考えるときのように」

 野矢茂樹さんの哲学的エッセイというべきか。「哲学的」と書いたが「哲学以前」のようでもあるし、哲学する前の頭の体操か地ならしのようでもある。いろはの「い」ではなく、てつがくの「て」といった感じか。哲学書だとしたら、ゆる~い哲学書だ。

 コロナに罹患したときに野矢さんの「ここにないもの」という本を読んだ。現代版対話篇という趣だった。こちらのイラストも植田真さん。この「はじめて考えるときのように」で植田さんに会ったと書いてあるので、こちらが先のはずだ。植田さんのイラストが気持ちを落ち着かせてくれる。

 「考える」「わかる」「論理」「推論」などについて説明してくれるというよりは、日常的なことを話ながら、触れていくような形だ。なんとなく、このタイミングでしっかり理解しなくてもいいよと言われている気がする。海に入らず浜辺を歩いているような、遠くから見ているような、それでも見えているのは海なのである。もっと学術的な野矢さんの本を読んでみたいとも思っていて、手元にも1冊あるのだが、どうも優しく書かれている本に手が伸びてしまう。

 人生の節目に入ったということもある。長い社会人生活の転換期が訪れて、気持ちを落ち着かせてくれる本をどこかで望んでいたようである。何度もこの本の横を通り過ぎていたのに、ふと気になり始め、つい手にとってレジに持って行ったのだ。

 人生訓を与える本ではないが、立ち止まって考える際の道しるべになってくれるような気がした。考えている自分を遠くから見ているような気分にさせられた。