晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「花のレクイエム」

 作家・辻邦生さんの花に関する短い小説に、銅版画家・山本容子さんの版画も掲載されている。コンパクトながらなかなかリッチな一冊。古本屋で見つけた。山本容子さんについては、一時期やたらとメディアに登場する時期があったと記憶している。そういえば集英社集英社ギャラリー『世界の文学』」は山本さんとのコラボの文学全集だった。山本さんを起用しているから、タイトルに「ギャラリー」と入れたのだろう。当時は社会人になって数年目。まだそこまで本にお金はかけられずに2冊買えただけだった。ラテンアメリカアメリカⅢだった。辻邦生さんは一度読んでみたいと思っていた作家。家に「廻廊にて」があるのだが、もはや字が小さくてとても読む気になれない。ふと読む機会を得たのがうれしい。平成にでた文庫本なので、まだ字は読める。

 1年12カ月、月ごとの花のテーマに沿って山本さんが版画を、辻さんが掌編を用意した。テーマとなるのは花だけ。「挿花」という雑誌の連載だったという。それぞれのイメージなので、花の色が違う場合もある。1月は「山茶花」だが、山本さんは白、辻さんは赤で作品を仕上げている。

 それ以降の花は、2月「アネモネ」、3月「すみれ」、4月「ライラック」、5月「クレマチス」、6月「紫陽花」、7月「百合」、8月「向日葵」、9月「まつむし草」、10月「萩」、11月「猿捕茨」、12月「クリスマス・ローズ」。「レクイエム」というタイトルにあるとおり、死が関係する切ない話が多いが、妙に湿っぽさはない。はかなさという意味では、花と結びつく部分もある。

 フランスもの、時代物とそれとなく辻邦生さんの「守備範囲」がわかってきた気がしている。100ページほどの本だが、いい涼みになった。