別に原発事故関係の本はとことん読んでやろうと力んでいるわけではないが、東京電力福島第一原発から10キロあたりに住んでいた者として気になることは気にすることにしている。廣木隆一著「彼女の人生は間違いじゃない」。朝日新聞の読書欄で知った。廣木さんは映画監督だそうである。存在自体は知らなかったが、作品はいくつか知っている。「ヴァイブレータ」「余命1ケ月の花嫁」「月の満ち欠け」などなど。文芸系が多いだろうか。恋愛映画の名手だそうである。福島県にこんな映画監督がいたなんて。小説は初めて書いたそうだ。
東日本大震災と原発事故から数年経った福島県の浜通りが舞台。主人公のみゆきは地元の役所に勤める公務員だ。父とともにいわき市の仮設住宅に住んでいる。母親は小さい時にがんで亡くしている。父は土地が汚染され、支援金でパチンコ通いだ。週末、みゆきは深夜バスで東京に行き、デリヘル嬢として働く。現実を忘れる場所が欲しかった。自分を知っている人たち全員を裏切ってみたかった。もっと不幸になりたかった。そんな理由があった。金銭的な理由ではない。
「別人」だということもあるかもしれないが、デリヘル嬢として働いているみゆきの方がどこか開放的な人間として描かれている。やはりばれないように、東京に行く理由などは噓をついているのだが、不思議と徹底的に隠し通そうという風には感じ取れない。性的な趣味がある客がつくが、どこか人間くさい。逆に癖がある方が人間くさいのかもしれない。
元恋人や父親、俳優志望のデリヘルの従業員、そしてみゆきと、足を一歩進めるきっかけをつかんで話が終わるので非常に読後感がいい。映画監督ということも関係しているのか、廣木さんは非常に映像化しやすい文章を書く。読み進めるのにまったくストレスを感じずに読了できた。100ページ程度だが、気持ちのいい読書だった。